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2008'02.14 (Thu)

2月のワルツ(1/2)

「…音無君は仕事…律子君も不在なのか……仕方ない、一人で向かうとしよう」
「おはようございます、社長」
「おお、萩原君。実にいいところに来た。
 これから何か仕事のスケジュールは入っているかね?」
「ええと、スタジオでダンスレッスンがあるんですけど…」
「突然で済まないが、今日はひとつ私のお供をしてくれんかな。
 有名なブライダル会社から、モデルショーの招待を受けたのはいいんだが、
 男の私が一人で行くのもどうかと困っていたんだよ」
「…そうだったんですか。そうですよね…社長ひとりで行くのは寂しいかも…
 あっ、でも、プロデューサーに聞いてみないと」
「心配いらんよ。音無君に連絡を頼んでおこう。
 彼はおそらく外で、事務所の周りの雪かきをしているはずだ」
「わかりました。じゃあ、一緒に行きましょう」
「ショーの後には立食パーティーがあると聞いている。
 萩原君も、少しばかり着飾ってから向かうとしようか」

***

「ふぅ、大体かき終わりましたよ。一晩で随分積もったもんだ」
「お疲れ様です、プロデューサーさん。暖かいお汁粉をご用意しておきましたからね」
「ありがとうございます。……雪歩は、社長と出かけちゃったんでしたっけ?」
「ええ、数時間前に。会場は立派なホテルだったと思いますよ。
 今頃はショーも見終わって、パーティーの時間じゃないかしら」
「さぞかし大勢集まるんでしょうね」
「あら電話。――はい、765プロでございます。……社長?」
「おお、美味そう。では小鳥さん、ありがたく頂きます」
「……プロデューサーさん、社長からお電話です。なんだか急ぎの用事みたいですけど」

***

「社長…ど、どうしましょう…」
「…申し訳ない。萩原君。君にとっては少し厳しい展開になってしまったな。
 まさかフリーダンスを行うことになるとは、私も想定外だった」
「……あっ、2人ともいたいた。社長、一体どうしたんです」
「おお君、君だよ。待ちわびたぞ!」
「俺朝から何も食べてないんですよ。先に何か食べてもいいですか?」
「申し訳ないが食事は後回しだ。私に代わって萩原君の相手を務めてもらえないか」
「えぇっ!?」
「…しっ、声を荒げるな。私とて君に紳士的なエスコートを要求してるわけではない。
 ただ面識の無い男性相手に、彼女が一人で数時間もつとは思えん」
「た、確かに…お偉いさん相手に逃げ出しでもしたら、ショーは一瞬で台無しですけど…」
「…2人とも何をひそひそ話してるんですか…?」
「いやなんでもない。萩原君。私はこれから少しお偉いさんたちに挨拶をしてくるよ。
 代わりに彼をおいていくが、周りのごちそうに目が眩んで逃げ出されることのないよう、
 傍を離れないでやってくれたまえ」
「あ。あの、社長?…行っちゃった…」
「…やれやれ、何てこった。やっとまともな食事が出来ると思ったのに…」

少女は困っていました。綺麗な舞踏会もごちそうも、彼女にとってあまり意味はありませんでした
パートナーを代える流れになるたび、社長の手を引いて隅にいるのが関の山だったのです

青年は空腹でした。朝からずっと雪と格闘して、そのまま腹ペコで飛び出してきたのです
よれよれのスーツと濡れた靴で、出来もしないワルツを踊るなんて無理でした

広いパーティー会場の中で2人だけが途方にくれていました
緊張の熱で震える小さな手も、雪で冷たくなった無骨な手も、互いに差し出すことすら出来ず――


曲が終わりました。パートナーを代えようとする空気が会場を流れていきます
2人とも、たくさんの視線が自分たちに降ってくるのを感じていました

不安を覚えた少女は、苦手な犬の前を歩くくらいの勇気を振り絞って、とうとう手を伸ばしました

「…ん? 雪歩、どうした?」
「あ、あの、…あの…プロデューサー…
 ……わ、私と…踊ってくれませんか……?」
「あれ。雪歩は踊れるのか? 俺はワルツなんて一度も踊ったことないけど」
「お、踊れるわけじゃないですけど。
 …でも、このまま一人でいたら声を掛けられちゃいますよ」
「もし雪歩が声を掛けられたとしても、俺がダメだって断るからさ。
 さっき社長からうんと念押しされたから大丈夫だよ」
「でも、もしプロデューサーが声を掛けられたとしても、私はダメって断れません…」
「……俺が自分で断る選択肢はないのか?」
「だって、モデルさんたち、皆さんすごく綺麗でスタイルのいい人ばかりじゃないですか」
「そうかも知れないけど。…でも俺はワルツなんて出来ないよ。
 突っ立ってるだけが精一杯で、間違えて転んじゃうのがオチだ」
「…じゃあ、踊ってもらえますか?」
「まぁ……最悪、雪歩が俺より恥をかくってことは無いしな……
 仕方ない、一曲だけだぞ。それ以上は俺が腹減って一歩も動けないからな。
 あとで社長もちょっとは食べるのを許してくれるかもしれないし、それに、」
「それに?」
「……いや。……ただ、今日はやけに大人びたドレスなんだなと思って――」

***

「本日はお招きありがとうございました。実に見事なショーでしたな」
「ご満足いただけたようで何よりですわ。
 ところで高木さん、先ほどお連れしていた女の子ですけれど、
 6月に開く予定のブライダルショーにお借りできないものかしらね?」
「萩原君を…?…しかし彼女は、ほかの子に比べて内気といいますか、
 少し臆してしまうところがあるのですが…」
「ええ、私もそう思って拝見していましたわ。
 でもほら、今あそこで踊っている彼女は、
 何だかとてもとても嬉しそうな顔をしているものですから」
「……お恥ずかしい。相手を務めておるのは我が社の人間です。
 モデル達と比べるのはいささか酷かもしれませんが、見ていてもどかしくなりますな」
「ワルツに上手い下手は関係ありませんわ。
 それが証拠に、さっきまで不安そうだったあの子が、嘘みたいな笑顔じゃありませんか。
 私は、見ている側も自然と幸せになれるような子をずっと捜していたんですよ?」
「成程。…わかりました。その話、お引き受けいたしましょう。
 我が社に先だって話を持ちかけてくれたこと、感謝いたしますぞ」
「いいお返事が聞けて嬉しいわ。では、私の相手も務めていただけるかしら?
 高木さんにとって、こんな老人が相手ではご不満かもしれないけれど」
「いいえ。身に余る光栄ですよ。何しろ一人でワルツは踊れませんからな。
 手を取り合っても許せる相手でないと――踊ることすら出来ないではありませんか」


曲が変わりました。あれから何度めかの変更でした
でも2人は、まだ同じ手を取り合ったまま、慣れないワルツに悪戦苦闘していました
大きな仕事の話も、周りの優しい視線も、2人はちっとも知りませんでした

青年の腕の下をくぐり抜けた少女は、くるりと優雅なターンをかえしました
それは一瞬だけ会場中の視線をさらうくらい綺麗な、けれど他の誰の手にも戻らないターンでした

翻ったドレスの裾と、さらさらな栗色の髪が元ある位置に戻ったところで――

――特別な場所に笑顔で戻ってきました





【考察】雪歩スレ16-357・359 投下日:2008/02/14

<ノルマ:男の人が苦手>

バレンタインネタは前作でやっていたので、6月の仕事にスポットを当ててみました。
「先方さんが雪歩に是非モデルをやってほしい」という前設定があったので、
高木社長と先方さんを合わせるところから考え始め、逆に辿っていくように作りました。

6月の仕事、ということで、ブライダルショーにあずささんが出ているというのも
考えたのですが(誕生日のウエディングフィギュアがあったため)、
一度に動かせそうになかったので、代わりに社長と先方さんのトークを入れました。

「別の場所にいる人が、雪歩以外の視点でその様子を語る」という手法を覚えました。
後半パートでは高木社長をいかにカッコよく見せられるかに力を尽くしました。
エピローグが決まったのは、社長のリード部分が完成してからだったと思います。
題材にワルツを選んだのは「雪歩がターンした髪の動き」を入れたかったからです。

この後日談が収まらなかったので、次の作品に続いています。
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