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2008'03.22 (Sat)

空飛ぶ船

「その場所はね、皆にとっての宝島のようなところなんだよ」
「…宝島、ですか?」
「いつの日か萩原君も、そこを目指すことになるだろう。
 一番高い座に辿りつけるのは、ほんの一握りだ」
「わ、私、競争とか苦手だから、あまり自信がないです…」
「おやおや。まだレースに参加すらしていないのに、宝物を諦めてしまうのかね?」
「最初から諦めるつもりはないですけど…
 でも、ほんの一握りってことは、辿りつけない人も大勢いるんですよね…?
 他の人たちを追い抜いていかないと無理ってことですよね…?」
「混み合った空を行くのが不安なら、最初はゆっくり海を渡ればいい。
 最終的にはそんな事は言ってられなくなるかもしれないが」
「…怖くても、いつかは空を飛ばなくちゃいけないってことですか…?」
「なに、君は決してひとりでレースに出るわけじゃない。
 いつか君のことをプロデュースしたいと望む者が現れたら、
 その人は君の不安を取り除いてくれるかもしれんよ」

***

「プロデューサーさん、お仕事のほうはもう慣れましたか?」
「何だかあっという間に数ヶ月過ぎちゃった感じです。
 課題は山積みだけど、こればかりはすぐには片付きませんしね」
「“トップアイドルへの道は、一日にして成らず”ですよ。
 社長もそう仰っていたでしょう?」
「小鳥さんの言うとおりです。
 実はそろそろ、少し上にも挑戦しようかと考えてたんですが、
 なかなか良い条件のオーディションが見つからなくて」
「これなんてどうかしら。日付も近いみたいだし」
「場所は?」
「ほら、駅の近くに大きな会館があるでしょう。
 このまえ新装開店したスーパーが隣にある――」
「ああ。知ってます。着ぐるみがチラシを配ってるのを見かけました」
「ちょっと圧倒されちゃうかもしれないけど、いい経験になると思いますよ。
 エントリーの手続き、進めておきますね?」

***

「――ふう、やっと受付を済ませてきたぞ。それにしてもすごい数だな。
 テレビで見たことある子もちらほら見かけたし」
「…プロデューサー。…わ、私、…やっぱり、皆みたいにはなれません…」
「雪歩?」
「こ、こんなに大勢の中で一番になるなんて無理です…
 ダンスも歌も、私よりうんと上手い子ばかりみたいだし…」
「まぁ、今はそう思えても仕方ないかもしれないけど。あまり気にすることはないよ。
 雪歩は自分のペースで昇っていけばいいんだから」
「……でも私はただの船です…飛行機になんてなれません…
 だからきっと、宝島だって到着できそうにないし」
「…船?…宝島?…一体なんのことだ??」
「ぐすっ…私みたいなダメダメな船は、穴掘って海の底まで沈没してますぅ…」

優れた機体の数々を見上げて、船はいまにも転覆してしまいそうでした
船底に穴こそ開かなかったとはいえ、浸水くらいは始まったかもしれません

元より彼女は他人を落として進めるような性格ではありませんでした
争いごとを苦手とする船が、大空を翔る機体になれるわけが無いのです

大きな高波の予感がします。レースの嵐に沈められるのも、時間の問題です――


悪い空気を悟ったPは、落ち込んだ雪歩を連れて空の下に出てきました
すぐ隣の建物は、雪歩のテンションとは正反対にとても華やいでいます

にぎやかな音楽とシャボン玉に囲まれて、着ぐるみの動物たちが宣伝をしていました
2人に気づいてやってきたクマが、持っていたものを差し出しましたが
俯いて目をこすっていた雪歩は気づくことが出来ず――それはPの手に渡りました

その場に立っていたPは、しばらく考えてから、雪歩の後頭部に呼びかけました

「あんまり泣いてると、着ぐるみたちが集まってくるぞ。
 もうちょっと落ち着いたら、中に戻ろうな」
「…でも…やっぱり私は…」
「要は、沈没しない船があればいいんだろう?」
「え?…あっ…」
「うっかりして空に逃がさないようにな。
 雪歩がずっと泣いてるようだったら、また渡しにくるかもしれないけど」
「…くれるんですか?」
「雪歩にくれたものを、俺が貰っても仕方ないからな。
 少なくともこれは、雪歩みたいに沈んじゃうってことは無いぞ」
「…でもこれも船です。空飛ぶ船ですよ」
「うん。そうだな、雪歩と同じ船だ。
 これだったら沈没する心配はないよな。迷子にはなるかもしれないけど」
「迷子にならない方法、プロデューサーは知らないんですか?」
「いや?」
「じゃあ教えてあげます。
 手を離しちゃうから逃げちゃうんですよ」
「そんなの知ってるよ」
「だからプロデューサーがうっかりしてたら、やっぱり逃げちゃうかもしれません。
 気づいた時にはうんと遠くまで飛んでっちゃうかも」
「…いくら俺がぼーっとしていても、そんな小さな子供みたいなことしないよ。
 まぁでも、無くなって泣いちゃうよりは、ずっと握ってたほうが安心だよな。
 手を離さない限りは、ずっと傍にいるわけだし――」
「プロデューサー」
「うん?」
「私、頑張ります。だから手を離さないでください。
 ずっと離さないでくれたら――どこまでも行ける気がします」

***

白い船がフワリと空に浮かびあがって、どのくらいの時が流れたでしょう

「どうしたんですか、社長。いつになくぼんやりしちゃって。
 今日は雪歩ちゃんの晴れ舞台ですよ」
「ああ、今行くよ。ちょっと昔のことを振り返っていたんだ。
 あんなに臆病だった萩原君が、まさか一等星まで辿りついてしまうとはな…」

宝島に辿りついた雪歩は、宝物の在り処に気がつきました
しかしそれを手に入れるには、随分と高すぎる場所まで来てしまったようです

ここは確かに綺麗な場所でしたが、静かで冷たく、寂しいところでした
きゅうっとなった胸の奥が、宝物を求めて降りることを望んでいました
けれどこの場所を離れたら、全ての魔法は解けてなくなってしまうでしょう

それでも彼女は宝物の前に進み出ることを選びました
航海の途中で手に入れた勇気は、今の言葉の為にあったのかもしれません


最後まで約束を守り続けた青年が“おいで”と呼びかけた数秒後――

――宝物の一端に触れた風船は、ただの女の子に戻ってしまいました





【考察】雪歩スレ17-571・572 投下日:2008/03/22

<ノルマ1:エースコンバット配信(アイマス機)>
<ノルマ2:120行でトップアイドルまで展開させる>

前作でP視点だったので、雪歩にポイントを合わせて考え直すことにしました。
ゆきホークそのものは戦闘機という機体でもなく、ステルス的な機体だったので、
「空中戦は苦手そう」なイメージを持ちました。

そんな機体を預けられたPが、どんなふうにトップアイドルを目指すのか、
戦闘が出来ない戦闘機で勝ち上がることは可能なのか、というものにポイントを絞り、
そもそも雪歩自体がそれを自覚してしまっている、という条件を入れつつ、
本来なら1年がかりのところを、2レスで一気に駆け抜けてもらいました。

前作のSS(「魔法のティアラ」)でPが雪歩に
「アイドルになる魔法」を掛けていたのならば
「普通の女の子に戻る魔法」も掛けられるだろうと思い、
あえて前作と対になるようなラストで揃えました。

アイドルであっても、そうでなくなっても、幸せであるという考えを含めたかったのだと思います。
00:00  |  雪歩  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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