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2009'06.19 (Fri)

虹色の鳥【fairyt@le】

あるところに、トップアイドルを夢見る女の子がいました。
歌が好きで、ちょっぴりドジな、ごくごく普通の女の子。

女の子の歌を聴きとめたのは、プロデューサーの青年です。
自分の歌を褒められて、嬉しくなった女の子は、毎日毎日レッスンに励みました。

レッスンのコーチが、審査員の先生が、
その頑張りと歌を、だんだん認めるようになりました。
数えきれないほど大勢のファンが、女の子に夢中になっていったのです。

拍手と共に女の子が戻るたび、「すごいなあ」と青年は言いました。
その嬉しそうな一言で、疲れは吹き飛び、また次のステージに登れるのです。

女の子はステージに立ちつづけました。周りの期待以上に眩しく輝いていました。
その歌声を聴いて笑顔にならなかった人なんていません。
間違いなく、たくさんのファンを幸せにする、夢のトップアイドルになったのです。

七色の歌声で皆を夢中にさせるアイドルは、いつしか虹色の鳥と称えられていました。

*****

ある日、女の子は青年の元気がないことに気づきました。
ステージを降りたあとも、心配なあまり、疲れが吹き飛びませんでした。

(どうしたんだろう。私の歌が下手になっちゃったのかな……?)

不安になった女の子は、事務所の人たちに尋ねてまわりました。
事務所の皆はつとめて明るく応えます。

『大丈夫。君の歌は最高さ』 『心が安らぐ素敵な歌声だ』 『皆が幸せになるからね』

気を取り直した女の子はステージに向かい、仕事に励みつづけました。
七色の歌声は今なお色褪せることなく、海外にまで届きそうな勢いなのです。
そうなればきっと、プロデューサーの青年は、もっともっと喜んでくれるはず。

全力を出し切ってステージを降りた女の子は、青年の元へ向かいます。
「すごいなあ」と喜んでもらいたくて。そうしたらまた笑ってくれると思って。

――けれど。

「すごいなあ」と言った青年は、どこか申し訳なさそうな表情になりました。
そんな顔を見るのは、初めてのことです。女の子はすっかり戸惑ってしまいました。

青年は言いました。

「こんなに頑張って長いこと無茶をさせて。君はすっかりくたびれてしまったというのに。
 他の皆は、今よりもっともっと君を働かせるべきだと言うんだ。
 アイドルを売り出して有名にすることが、プロデューサーの仕事だと皆は言うけれど、
 この先もずっと君に無理強いさせるのを、黙って見ているしかできないことが辛いんだ……」

女の子は何も言えません。青年はずっと前から悩んでいたのです。

明らかに女の子が無理をしていることも。
周りの期待に応えつづけて、それがいつしか重い枷になっていることも。

そして、

飛ぶのに疲れた虹色の鳥が、普通の女の子に戻りたがっていることも。

*****

青年は何度も何度も説得しましたが、周りは誰も受け入れてくれませんでした。
鳥が歌をうたわなくなることも、その翼を休ませることも、認めてもらえなかったのです。

いつまでもカゴに閉じ込めて歌わせれば、鳥は空に戻れることなく死んでしまいます。
このままステージから降りられなくなる前に、どうにかしてあげたかったのです。

プロデューサーの青年は、いつしか自分の仕事に自信を失いかけていました。
そしてそれに気づかない女の子ではありませんでした。
やがて虹色の鳥が、自ら七色の歌声を閉ざすようになるまで、大した時間は要しません。

*****

歌わなくなった女の子と、歌わせられなくなった青年を前に、事務所の皆が声を荒げます。

『それ見たことか』 『早くしないと手遅れになるぞ』 『君はもうプロデュースから手を引くんだ』

女の子は頑なに拒否しました。他人の傍で歌っても、七色の歌声は出てこなかったからです。
青年もまた一歩も引きませんでした。誰かに預けた後の女の子のことが心配だったからです。

目を光らせた同僚が、『彼に代わって彼女を担当したい』と社長に直訴していることを知り、
もはや一刻の猶予もないと悟った青年は、女の子を連れて事務所を飛び出しました。

*****

それからというもの、青年は必死に働きました。
女の子に申し訳が立たなかったのです。
古い親友の助力をうけて、小さな芸能事務所を設けました。
階下に居酒屋がある、オンボロなビルです。

女の子は、青年が始めた仕事を手伝いました。
青年に何か恩返しがしたかったのです。
たくさんの候補生たちが集まってくるよう、事務所の宣伝に力を尽くしました。
歌うことが好きな女の子たちが、いつかここを賑やかにしてくれることを信じて。

月日は流れ、七色の歌声など、誰もが幻のように思いはじめていました。

*****

虹色の鳥のうわさが、小さな事務所に届いたのは、それからずっと後のこと。

「審査員の先生に言われちゃったんです。
 『未熟な歌声ですね。それでは虹色の鳥と称えることはできませんよ。
  あなたはまだまだ殻をかぶった、虹色の小鳥も同然です』って」
「はっはっは。天海君、虹色の鳥は、幻の鳥だよ。
 それはそれは見事な七色の歌声で、何百万もの観客を沸かせたという話だ」
「わ、すごく素敵な鳥なんですね! 社長は、見たことがあるんですか?」
「ああ。よく知っているとも。とても綺麗な歌をうたう鳥でね。
 公園を歩いていたら、偶然その歌声が聴こえてきたんだよ」

すっかり年を取った青年は、目前の女の子に語りかけます。
まだ見ぬ虹色の鳥に憧れる、明るくて元気な赤い小鳥でした。

あのときの願いを叶えた女の子は今、賑やかな小鳥たちに囲まれてお仕事をしています。
青年があちこち歩き回って見つけ出した小鳥たちは、1人として同じ色の羽をもっていません。
けれど2人の目には、どの子もみんな、虹色の鳥になるように映って仕方ないのです。


その小さな事務所には、今も虹色の鳥がいます。
                                   (おしまい)





【考察】 創作発表板アイマススレ2-331・332 投下日:2009/06/19

pixivにて【fairyt@le】企画を拝見したとき、最初に浮かんだのは「金の卵をうむニワトリ」でした。
黒井社長の話が書きたかったこともあり、アイドルを商品として捉えてみたかったことも含め、
初期のプロットは、それほど救いのない話だった気がします。

次に浮かんだのは、「春香のIFの未来」でした。
トップアイドルになった春香と、そこに留まったPの話です。

おとぎ話なので、何にでもなれるIFの話を書きたかったのです。
「歌姫になったけれど、幸せになれなかった春香」というテーマはギリギリまで話の核でした。

アイドルのすり替えを思いついたのは、終盤まで終わった頃だったかと思います。

「歌姫になった春香のような女の子」を小鳥さんに、
「それを悩んだ春香Pのような青年」を高木社長にすり替えておいて、
本当の春香がいる現在の765プロに時間をもってくる……

展開的には「金の卵をうむニワトリ」を他の場所につれていかなくてはなりません。
そこでもう一つ「ジャックと豆の木」を追加することにしました。

2本の童話を詰め込んだので、少し駆け足気味になりましたが、
「MAフィナーレで小鳥祭りを聞くことになる春香」まで引っかけることができて満足しています。
00:00  |  小鳥  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

社長のP時代、小鳥さんのアイドル時代、と言った過去話をそれぞれ別個に見ることはあったんですが、同じ時間軸に二人ともいる過去のお話というのはあまり見たことがなかったので、新鮮な印象です。

寓話Pのお話を読むと、「そうそう社長ってそういう人だろうなあ」といった感想を持てるのが嬉しいのかもしれません。
自分が各キャラに対して持っているイメージがきれいに表現されているというか…公式設定などからうかがい知る事のできる皆の性格を同じように感じられているという安心感があるのかもしれません。
だから、毎回の作品を読了したときに違和感なくストンと心に入ってくるのだと思います。そして読後の清涼感と。

社長と小鳥さんのことがまた一つ好きになる、そんな作品でした。
今後の作品も楽しみにしていますヽ(・∀・ )ノ
grossa | 2009年06月29日(月) 19:42 | URL | コメント編集

>grossaさん

コメントありがとうございます。
社長と小鳥さんの昔話はプレイヤーの数だけ予想がありますよね。
ゴール地点だけが確かな2人なので、そこに辿りつくまでの話を考えるのはとても楽しいです。

アイマスの話になってしまいますが、社長はゲーム内の時間を管理している人なんですよね。
「活動にとりかかってくれたまえ」で始まって、「活動停止が決まった」で終わるわけですが、
「1年だけなんて言わずに2年目も3年目も続行しましょうよ!(´・ω・`)」と
思ったことが何度かありました。

「もしもアイマスに活動停止が無かったら」
「Sランクのアイドルとずっと活動できたら」というIFの部分と、
「社長はどのPに対しても1年間でその活動を停止させる」
「普通の社長に比べても方針が違う(やさしい)」という元々の部分から、
社長と小鳥さんの昔話をひとつ捏造してみました。

捏造系のSSを出す時はものすごく緊張するので、皆のイメージと違ったらどうしよう……と
毎回ドキドキしているのですが、grossaさんの持つイメージから遠くなかったようでホッとしました。
「そうそうこの子ってこんな感じ」とアイマス感を共有して頂けるのはとても嬉しいです。

あたたかいコメントをどうもありがとうございました。
この先ものんびりまったり作品を保管していくつもりなので、
順番が回ってこない子も気長にお待ちください(*´∀`)ノシ
寓話 | 2009年06月30日(火) 23:19 | URL | コメント編集

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