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2009'07.22 (Wed)

合戦時報

*本作はいつものSSに比べてかなり長めの作品になっております
*お読みになられる方は、以下の点を確認したのち、追記部分をクリックしてください

【考察】 創作発表板アイマススレ3-64 投下日:2009/07/22
『アイマスの“あの”オーディションを、スポーツ対決っぽく描写するにはどうしたらよいか?』

スレの雑談から生まれたネタ振りを、あれこれ考えて自分なりにまとめてみました。
[アイドル同士のガチ対決+審査員3名による評価+その他]=トータル400行

投下したSSを保管するにあたって、若干の改行変更(字数調整)を行っております。
今までの作品とは少し毛色の異なるSSとなりましたが、よろしかったらご覧ください。

【More】

<1>

「私が、ボーカルの審査員に?」
「ああ。千早の耳なら間違いないだろうし、亜美と真美もきっと納得してくれるはずだ」
「プロデューサー。私をあまり過大評価なさらないでください。
 私はこれから自主レッスンがありますし、2人の歌を聴き比べる自信もありません」
「それでも、俺じゃあダメなんだよ。千早」

事務所で1人音楽を聴いていた千早は、営業から戻ったばかりのプロデューサーに捕まった。
亜美と真美の歌を聴き比べてくれないかと、開口一番告げて頭を下げる。
先日ランクCになった話は聞いていたが、それがどうしてこんな話になるのかさっぱり解らない。

「ヤキニクマンって知ってるか。子供たちに大人気のヒーローでさ」
「実際にお会いしたことはありませんが……」
「それが今度、亜美に会うんだ。主題歌を任されて、共演するんだよ。
 もう2人そろって大興奮でな。自分がヤキニクマンとデュオを歌う!って聞かないんだ」

なるほど、と千早は思った。2人で仕事をしていると、しばしばこういう事が起こるという。
普段なら代わりばんこに仕事をしている亜美と真美も、今回ばかりはまたとないチャンスだ。
おそらく、憧れのボーカリストと共演できるようなものだろう。千早はそう考えて、少し迷った。

「審査員ということは、私だけが責任を負うのですか?」
「いいや。真と美希にも声をかけてあるんだ。だから実際のところ、3人で比べてみて欲しい」
「プロデューサーはどちらに?」
「俺が混じると偏りが生まれるからな。亜美と真美が意識しても悪いし」
「わかりました。それでは、少しだけ付き合います」
「ありがとう千早。助かるよ」

つまらなかったら席を立って構わないからなと言って、プロデューサーは千早を連れてレッスン室へ向かう。

連れて行かれた先で、千早はさっそく双子がやりあう声を聞いた。

「今日は絶対負けないよ、真美! 亜美のミラクル☆ダンスに皆はメロメロなんだかんね!」
「んっふっふ~♪ 真美のせくちーボイスを聴いたら、とかちつくされるに決まってるっしょー!」
「亜美、真美。千早を連れてきたぞ。支度しておいで」
「あっ、千早おねーちゃん!」
「千早おねーちゃん、今日は真美がんばるから! 本気の本気だしちゃうかんね!」
「ええ。そのように伺っているわ」
「亜美も! 亜美もがんばるよ! 真美なんてケチョンケチョンのプーだからね!」
「えーい、やかましい! 2人とも、さっさと支度してこいっ」

きゃあきゃあと賑やかに、ジャージの2人が駆け足で逃げていく。こういう時は一致団結するようだ。
少し疲れた様子のプロデューサーは、レッスン室の真ん中奥に置かれた長テーブルを指で示した。
先ほどからこちらを見ていた様子の美希が両手をぶんぶん振ってくる。千早も声に出さず笑い返した。

「じゃあ、任せてかまわないかな。俺はまたあとで、様子を見に来るから」
「わかりました」
「正直なところを言ってやってくれると助かる。千早ならおそらく聞き分けられるだろうしな」

プロデューサーはそう言うと、奥にいる美希と真に一声掛けて行ってしまった。千早はまだ全ての要領を
呑み込めていないまま、ひとつだけ残されていた空の席につく。

「千早さん、ミキも今日は審査員のセンセイなの。真クンもいっしょだよ!」
「亜美も真美も本格的だよね。衣装も本番用のやつから決めてくるんだってさ」
「それで、私はどうすればいいのかしら。亜美と真美が歌うのを、聞き比べればいいの?」
「えっと。あのねえ――」

美希は言われたことを思い出すようにひとつひとつ告げた。

亜美と真美が各自フルサイズで歌いたい曲を1曲ずつ選んだこと。
2人が決めた曲を、これまた自分たちが決めた衣装で歌うこと。
ジャンケンに負けたのは真美なので、真美が選んだ曲からスタートすること。

「真美が選んだのは『エージェント夜を往く』でね、亜美が選んだのは『I Want』だよ。
 でもねホントは、真美も『I Want』が良かったんだって!」
「……ずいぶんと偏った選択なのね。どうして?」
「ほら、律子が言ってただろ? 『こういう曲はとんでもなく弾けてこそなのよ』とか何とか」

そう言われた千早は、律子の『I Want』を思い出す。そうして少し眉根が寄った。
何か異質なものが乗り移ったような、気合いがこもり過ぎた儀式のような、腹の底から迸る祈りのような、
――少なくともあの叫びを、歌、とは表現しづらかった部分もあるのだけれど。

「あはっ。亜美と真美、あれすっごい気に入っちゃってたもんね。
 『ひざまづかせてー!』とか『もっかいシャウトしてー!』って」
「それは……歌としてどうなのかしら……そもそも歌なのだから、歌詞の意味を受け止めるべきだわ。
 亜美と真美は、ただ面白がっているだけではないかしら。それでは折角の歌が台無しに――」
「ねーねー真クン。千早さんのありがたーい講釈がはじまっちゃったの」
「まあ、いいじゃない、千早。ちょっとはっちゃけてるけどさ、律子の歌い方もボクは好きだよ。
 なにしろ音楽なんだからね。少しは音を楽しまなくっちゃ」
「……それもそうだけれど……いいわ。どちらにせよもうすぐ2人が歌ってくれるのだもの」

生じた邪念を払うように、千早が首を横に振ると、レッスン室のドアが再度開いた。
気合い十分な亜美。少し落ち着いた様子の真美。2人の様子は対照的だった。そしてその衣装も。

片や黄色のマツリダワッショイ。片や漆黒のメルヘンメイド。

レッスン室のライトの下でも、やはり本番の衣装は映える。思わず美希が歓声をあげた。

「わあ。2人とも、お人形さんみたい! 亜美はすっごくやる気マンマンだね!」
「やっぱり黄色は目立つなあ。皆でステージに立つ時でも、真っ先にパッと目がいくよ」
「真美はあれで良いのかしら? スカートでは少し、踊りにくそうな気もするのだけど……」

審査員たちの呟きもそこそこに、2人はぺこりと頭を下げた。
互いに背を向けて、ガンマンの抜き撃ちのように数歩距離を取る。今日は他に邪魔者はいない。
敵はひとり。味方はいない。亜美は目をつむり、真美は息をはいた。

“今日は恨みっこなしね”

どちらともなく告げた。今になってずしりと肩が重くなった。
互いの一番の味方が、今日は一番の敵になっている。

「じゃあ、始めようか」

真が嬉しそうに言って、部屋がしんと静まり返った。



<2>

審査員の席で、千早は2人の声を比べる作業を続けていた。隣の真のリアクションで、些細な違いがわかる。
『エージェント夜を往く』は真の曲だ。代名詞と呼んでもいい。歌った回数ならば、千早にも引けをとらない。
ときどき隣でうんうんと頷くのが見えた。亜美も真美も現時点で大きな差は出ていない。あえて指摘するなら、
亜美は元気いっぱいにのびのびと踊り、真美はどこか丁寧すぎるほどに踊っているように感じられた。

真の隣では美希が、2人がひとつひとつステップやターンを決めるたびに、可愛い可愛いと連呼している。
美希は細かい評価を下さない。その代わり見たもの聞いたものを素直に口に出す。おそらくは今もそうだ。
亜美がぴょんぴょんとステップを決めては手放しで褒め、真美がスカートの裾をひるがえせばきゃあと喜ぶ。

さて、どこで評価を下したら良いものか。千早は手元に置かれたまっ白い用紙を前に2人を見比べる。

自分が歌うならどうだろう。早いテンポと激しいダンスが特徴的なエージェントだ。一拍の遅れが致命傷に
なる。
亜美は元祖たる真に引けを取らない、豪快で見る者の感情を満足させるようなダンスを見せつけてくる。
真美は亜美に比べて一見地味に見えるが、不思議とそれは不快に感じられなかった。千早は首をかしげ、
真美の動きをトレースする。本来この曲で、地味に動いていい評価は出しにくい筈なのに。

(……1.2.3でスイッチ。…ステップ。…そこでブレス、引いて。………なんて綺麗な動き)

ちらと横を見る。真は亜美のダンスにすっかり満足している様子。美希は2人とも可愛いと手を叩いている。
千早はそれでもなお、一見地味な真美のダンスに目を奪われていた。亜美に比べて見栄えがしない、けれど、
どこまでも基本に忠実なステップ。それは、ボーカルの自由を奪わない動き。

亜美の動きは激しい。それ故に酸素を求めがちだ。本来のブレス部分より早く息をとる。ダンス重視の動き。
一方真美のブレスは、教科書のように安定している。歌がぶれることがない。千早はそこを高く評価した。

自分が求められている仕事は、ボーカルの比較だ。そうだとすれば評価に迷いはなかった。
1曲目の評価は真が亜美を、美希と千早が真美を支持した。
1-2で分かれた評価に、亜美はぷぅと頬をふくらませ、真美はホッと胸をなでおろす。

「ありがとミキミキ、ありがと千早おねーちゃん! 次の曲も真美がんばるからね!」
「なんでなんでぇー? 亜美の方が元気だったのにー。まこちんが良いって言ったんだよー?」

審査員も大変だねぇと美希が言って、真と千早も苦笑した。
こんな風にぶーぶー言われるくらいなら、いっそ両方選んであげたいのも事実だった。

「でも、こうして比べて見ると、2人の歌い方はずいぶん違うのね」
「あ。ミキも思った! 真美がいっつも、亜美のマネっこしてるからかな?」
「そうだよ。何しろ今日はマネしなくていいんだから。真美が評価されるのなんて初めてじゃない?」

3人の声は、レッスン室の端と端にいる亜美と真美の耳に届いていた。ちらり。不安げに亜美が視線をやる。
真美は鏡張りの壁の前に立って、何かを確認するように呟いていた。鏡に映るのは亜美そっくりな自分の姿。
けれど今日は違う。今日はちがう。

今日は。

「!」

急に真美と視線が合って、びっくりした亜美はきょろきょろ周りを見回した。挙動不審もいいところだ。
一曲目は負けているけど、『I Want』には自信がある。何しろりっちゃん直伝のこぶちシャウトがあるのだ。
その為に衣装もマツリダワッショイを選んだ。気合いで負けたらおしまいだ。亜美は息を吐く。よし、大丈夫。

大丈夫大丈夫とつぶやく亜美から視線を外し、真美はまた鏡の中の自分と向き合う。



<3>

こんな筈じゃなかった。

亜美は混乱に陥っていた。何がおきているのかわからない。
少し離れた場所にいる真美が、いつもと全くちがうテンポでダンスをこなしている。
亜美の代わりに出ていたときは、こんなに早くターンを決めなかった。そもそもブレスの位置がいつもと違う。
動揺は膝から下に伝わる。亜美はふるりと頭を振った。これじゃいけない。これじゃまずい。
ペースに飲み込まれるまえに、飲みこまなくてはいけない。支配されちゃダメだ。

キッと前をにらむ。声はまだ出る。ステップも間違えてはいない。ただ真美が少しずれているだけだ。
いつもの自分と同じじゃないだけ。真美は何か考えがあってそうしているだけなんだから。

低いベースの音に混じって、己の鼓動が耳を叩くのがわかる。うるさいうるさい!亜美の邪魔をしないで!

ほとんど同じペースで、踵を返してターン。フルサイズの『I Want』はダンスにも強弱がある。ペース配分を
崩せば一気に置いていかれてしまう。
春香がよくこぼしていた。“歌についていけなくなっちゃうときがあるの”と。

亜美が振り回されているのは、歌ではなく真美の方だった。2人並んでレッスンをしていた時と違うテンポ。
お決まりのステップ。亜美がよく転ぶところ。真美は真似して転んだりしない。亜美に合わせてくれるもん。

――合わせて?

さあっと、不思議な感覚が背筋を抜けて行った。そうだいつも真美は亜美のステージを見ていて。だから亜美の
出来ないところもよく知っていて。亜美の歌い方だって真似して。違ったらどれだけ居残りしても合わせて。

――今日は合わせない?

亜美の心を読んだかのように、一拍と半分はやく切り返す。そんな動き、亜美は知らない。
おそらくはステージの横で、真美はずっと見ていたのだ。自分ならこうする。自分だったらこうできる。亜美の
真似をするのでなければ。
サビに掛かる一歩手前。ほらもうすぐシャウトの瞬間。息を吸って力を込めて。亜美の脳裏に律子が過ぎった。

“見せ場でコケちゃダメよ”

うわありっちゃんそんな事ここで言わないで!亜美はぎしりと奥歯を噛んだ。真美より一拍遅れて身構える。
それだけでも真美には、いや見ている3人全てに、差は明らかに見えてしまっていた。

「あれ?」と美希が思い、「亜美?」と真が訝しむ。

タイミングのずれが、本来なら合わないはずの視線を交差させた。真美は亜美を見据える。瞬間、亜美の
身体に、圧倒的な何かがぴしゃりと降ろされて、そこで亜美は間違いを犯した。

(いけない)

千早は思った。ブレスのタイミングが最悪過ぎる。息を吸うつもりも無かったのだろう。亜美は呑まれたのだ。
喉の奥で空気が結晶化して、肝心の声が固まった。

サビを放ったのは真美。膝をつかされたのは亜美。

――視界の隅で、千早が視線を逸らすのが見えた。



<4>

曲が終わっていないというのに、千早はどこか後悔を覚え始めていた。亜美のあの表情で、結果は見えた。
おそらく審査員に席を立たれた新人アイドルも、あんな顔をするのではないだろうか。顔に失望を浮かばせた
審査員を目前に見て、誰が決意を奮い立たせられるというのだ。

一曲が長い。一番のサビの時点で、真と美希も少し困った様子を顔に浮かべていた。2人も気づいたのだろう。
亜美と真美がバラバラに評価される厳しさは、双子に優劣を与えるようなものだ。立ち上がった亜美は、どこか
茫然自失していて、けれど真美がそれで、じゃあやっぱりやめよっか!なんて言いだすはずもなく。

ランクCに上がるまでの間、皆は亜美と、亜美の真似をする真美しか知らなかったというだけの話だ。
本当に一方を決めなくてはいけない瞬間が来て、本当の真美が頭角を示した。亜美の影であり、助っ人であり、
絶対無敵の片腕。そう、亜美の完璧なまでの影武者。歌い方もダンスもアピールも、亜美と瓜二つの存在。

どうしよう。千早は思った。プロデューサーはこれを知っているのかしら?
知っていて見せたのなら、どうしろと言うのだろう。亜美はもうガタガタだ。
本来表に立つべき亜美がフラフラで、裏に立つべき真美がこんなにもしっかり立てるのならば、次は亜美が
真美に追いつくべきではないのか。
亜美が10の力でターンするところを、真美は9の力でターンすることができる。
亜美が3秒かかって切り返すステップを、真美は2秒と半分で切り返すことができる。
優れている部分を低いレベルに合わせることは容易い。それは少しの余裕を真美に与える。表現として表れる。

席を立ってもいいと、プロデューサーに言われたのを思い出す。曲が終わるまでに決断を下さなくては。
3-0などという結果は、何より亜美の頭打ちを示す数字でしかない。ならばまだ、2-0の方がよいのでは
ないか。それが評価放棄でも構わない。

未だ淡々と隙を見せない真美と、ぐらつきながらも付いていく亜美。早いようでなかなか終わらない。間奏が
長い。
最後まで見届けてあげるべきかとも思ったが、やはり足に力を込めた。がたん。思った以上に音が鳴って焦る。

未だ真っ白な用紙を目前に、ほんの少し動揺を抑えこんだ千早の肩を、誰かがぽんと叩いた。

「どうした亜美! ほら真美も頑張れ!」
「プロデューサー?」
「2人とも、しっかりしないと、ボーカルの審査員が帰っちゃうぞ!」

微妙なズレを見せながらも、並んで踊っていた2人が顔を上げる。そこで千早は、また2人と目が合った。
未だまっすぐに前を向く真美と。ほんの少し疑問を目に浮かべた亜美。
亜美と目が合った千早は、鏡を見ずとも、きっと同じ表情なのだろうなと思った。

(……2人とも?)

千早がみる限り、しっかりしないとまずいのは亜美1人の筈だ。真美は今まで致命的なアクシデントがない。
それなのにプロデューサーは、真美も叱咤した。理解できているのは、この場では真美ひとりなのだろう。
それが証拠に、真美はキッと表情を硬くし、今まで以上に隙のないダンスを見せる。真がひゅうと口笛を吹く。
遅れながらも食らいついてくる亜美もまた、勝負を捨てた目をしていない。

「プロデューサーさん。ミキたち、もう審査員のお仕事はおしまい?」
「いや。曲はまだ終わっていないだろう。もっと見たいところは無いか」
「見たいところっていうか…正直ボクは、亜美と真美がここまで違うタイプだったことが驚きです」
「私も同感です、プロデューサー。何故今までこのようなことをなさっていたのですか」

遅れてやってきたプロデューサーは、亜美と真美より少しばかりランクが上のアイドルたちをぐるりと見回す。
どの子も色んな苦難を乗り越えて今のポジションを獲得してきた子達だ。それでも、己と全く同じ存在と争った
ことはない。追いかけられ追いつこうとする焦りを感じることも無かった。

断たれるように曲が終わる。真美が息を吐きだし、亜美がぎゅっと目をつむった。

「お疲れ、亜美、真美。ちょっと休憩にしよう。審査が立て込んでいるから」

プロデューサーの一言に、2人は何か言いたそうな顔をして、けれど言葉を飲み込む。
美希と真は、それでも考えが固まっているようだった。これ以上見ても、きっと結果は変わらないだろうと
思っている。
そして千早も、ほぼそういう気持ちで立ち上がろうとしていたのだ。プロデューサーの発言を聞くまでは。

「さて、どうだった? 先輩方から見て、あの2人の悪いところは見つけてもらえたかな?」

まただ。プロデューサーは2人を強調する。千早は再び白紙に目をやった。結局のところ、どこが良いも悪いも
書き出すことなく審査は終わってしまった。思ったのは、真美がほんの一歩亜美より優れていたという事だけ。

プロデューサーに聞けば解るのだろうか。それとも、自分が見つけるべきなのだろうか。もう一度振りかえる。
何か大事な部分を見落としていないだろうか。たった2曲でここまで十分差が出てしまって。

(!)

ハッとした表情で、千早が顔を上げる。美希と真が驚いて千早を振りかえり、プロデューサーが時計を仰ぐ。
自主レッスンの時間は何時からだと尋ねる声を遮って、千早は告げる。

「プロデューサー。もう少しだけ、あの2人の歌を聞かせていただいても?」



<5>

信じられないという表情を浮かべたのは美希だった。千早が指定したのは、さっきまで歌わせていた曲。
『I Want』の曲自体、先程までと何も変わっちゃいない。それなのに。それなのに、2人に変化がおきた。

「むー。ミキの目おかしくなっちゃったの? どうしてあんな風になるのかミキちっともわかんない」
「……いや。ボクもそう思ってた。やっぱりおかしくなかったんだ。何だかホッとしたよ」

美希は目をこするのを止め、亜美と真美に視線を戻した。跳ねるように動く四肢、それはまるで動物のような。
律子…さんが言っていたような気がする。“のれば良いのよ。テンションが上がればなんだって出来るわ”
そんなアドバイスじゃわかんないと言って、美希はあのシャウトは真似できなかった。ちょっと恥ずかしいし。
だけど目の前の亜美は、先程より真美に近い動きで、真美に食らいついて離れない。互角に渡り合っている。
全霊をこめた亜美の咆哮が部屋の空気をつんざく。生バンドがいればさぞかし映えただろう。振りかえった
真美が、亜美と目配せして、ムッとしたような困った表情になるのが解った。

ペースを乱したのは真美の方だ。2曲目まであれだけ正確なステップを踏めていたのに、乱雑になりつつある。
テンポを取り戻しかけてきた亜美と、乱れ始めた真美。まるで時計の針が少しずつずれていくように。

「ボクにはわかりません。プロデューサー。今度は真美がフラフラになってきてませんか」
「そうだな。さっきまでは容赦なかっただろう」
「そうそう! 真美、超無敵モードって感じだったのに! なんでなんで? 千早さんわかる?」
「私の予想が正しければだけれど……」

目の前で2人がほとんど同時に切り返す。亜美の袖が舞う。真美の裾が翻る。対照的な流れに思わず見惚れた。
オーディションでなくとも、2人はここまで魅せられるというのに――それを世間に公表できないのが悔しい。

「亜美は今までずっと、表立って歌ってきたわ。亜美の名前が出ている以上、メインは亜美でしょう」
「うん。真美は交代交代でやってきたんだよね」
「スポーツで言うならば、控えの選手よ。十分に身体を暖めて出場すれば、レギュラー以上に働ける。けれど」
「ああそうか。――真美はフル出場でライブをしたことが無いんだ」

真が両手を打つ。荒削りだがスタミナに秀でる亜美、丁寧だが短時間に限られる真美。一長一短もいい所だ。
どこまでも完全からは遠い2人。不完全のまま走りだして、今もなお、完全にはなれずにいる。

うひゃあと情けない声がして、真美が尻もちをついた。亜美が笑っている。負けじと真美が起き上がる。
笑うような曲じゃないのに。千早は苦笑した。2人はいっしょにステージに立つ事がこの上なく楽しい様子で。
それはきっと、今は叶わぬ夢だからに違いない。

「正直、俺も決めかねているんだよ。真美にのびのび歌わせてやりたいし、亜美だって同じくらい真剣だ。
 だが双海亜美は世界に1人きりだからな。2人一緒に歌わせてやることはできないんだ」
「むー。プロデューサーさんが決められないのに、ミキたちが決められるってこと無いと思うな」
「そうですよプロデューサー。これじゃあボクたちだって審査のしようが無いです」

こんなに楽しそうに歌う2人を、世界は知らない。世界が知る双海亜美はどこまでも一人ぼっちだ。
千早の目の前で無邪気に歌って踊るこのデュオの存在を、世界が目にすることは無いのだ。

「ねえ、2人とも。もういいわ、歌を止めて」
「千早おねーちゃん?」
「どうしたの、千早お姉ちゃん。……亜美が下手でガッカリしちゃった?」
「いいえ、そうじゃないわ。そうじゃないの。私に教えてほしいことがあるの。
 そのヤキニクマンさんっていうボーカリストは――ええと、どのくらいのアイドルランクの方なのかしら?」



<6>

~それから一月後~

「ほほう。今日から始まるヤキニクマンの新・主題歌を、亜美君と真美君が?」
「そうなんですよ、社長。プロデューサーさんたら、いそいそと録画までしていっちゃって」
「はっはっは、やはり彼も少年だな。私も昔は18の必殺技を武器に、バッタバッタと世間を渡ったものだ」
「そうそう、必殺技で思い出しました。ヤキニクマンを演じられている方、交渉に応じて下さったんですって」
「交渉?」
「はじめ、主題歌の曲だけだったでしょう? 亜美ちゃんも真美ちゃんも譲らなくって……」
「おお、そうだそうだ。それがどうなって、2人で歌えるようになったのだね?」
「なんでも、千早ちゃんが直に向かったらしいですよ。ヤキニクマンご本人のところに。
 オープニングだけとは言わずに、エンディングも歌わせてくれませんか?って。
 千早ちゃん、歌手業界の中では若手随一のアイドルじゃないですか。スタッフさん達がもりあがっちゃって」
「なるほど。それで個別に1曲ずつ歌えたというわけか。なかなか素敵な計らいではないかね」
「それが……まあ、そうなんですけれども……」
「けれども?」
「いっいえ! 何でもありません! 亜美ちゃんたちの曲、そろそろ流れますね!
 どんなオープニングなのかしら! ああ、とっても楽しみだわ!」

小鳥さんが社長と番組表をにらめっこしていた頃。
765プロダクションの別の部屋では、亜美と真美と千早がリモコンの取り合いをしていた。

「いけません。亜美、真美、レッスンの時間にテレビなんてもっての他よ」
「えぇー見たいよー! オープニングはいいから見たいー!」
「真美も見たい見たい! エンディングはいいから見たいー!」
「そ、それでもダメなものはダメよ! プロデューサー、この2人を早くレッスン室へ!」
「亜美、真美。あんまり千早を困らせるな。ヤキニクマンがすっ飛んでくるぞ」
「わあっ! いけないいけない、そうだった!」
「そうだよ真美! ヤキニクマンは千早お姉ちゃんの言うことすんなりきいちゃうんだった!」
「……プロデューサー?」
「こ、こら! そんなこと無いだろ! ちょっと千早がお願いしたら、主題歌2曲に増やしてくれて、
 おまけに今日の番組のメインヒロイン役まで御指名してくださったヤキニクマンさんだぞ!」
「いいなー。千早お姉ちゃんいいなー!」
「ねーちょっとだけ見ようよ。『きゃあーっ、たすけてぇーっ』って、15回くらいやり直したんでしょ?」
「だだだダメなものはダメです!!」
「そうだぞ2人とも。ワガママは駄目だ。それじゃヤキニクマンのようにはなれないぞ」
「ぶー」
「れ、レッスンはレッスン、テレビはテレビよ。そうですね、プロデューサー」
「ああ。録画はバッチリしてあることだし、多分小鳥さんなら生でチェックしてくれているはずだ。
 だから安心して皆でレッスンに励もう!……ん? どうした亜美? 後ろになにか……
 ……千早? ちょっ…いや……亜美!? 逃げるのか真美!? ちはっ――」



――そして戦いの時報は無情にも世界に鳴り響く。
                                        (おわり)
00:00  |  千早  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

拍手レス

>24日03時の方

いままでのSSに比べると極端に毛色が違うので、正直どういう反応がくるのかは
想像がつきませんでした。「らしくない!」と半分叱られ覚悟でもあったので、
楽しんでいただけましたらとてもとても嬉しいです。
たくさんアイドルが出てくる話も、またお見せできたらと思います。ありがとうございました。

***

いつも拍手ボタンを押してくださる方々、ありがとうございます。元気の源です。
いただいたコメントも、作品に対する拍手も、毎回ありがたく受け取っております。
コメントに関してですが、今後は可能な限りいただいた作品のコメント欄にて
返信していくことにしました。

スローペースな気まぐれ更新ではありますが、どうぞ宜しくおねがいします。
寓話 | 2009年07月25日(土) 10:15 | URL | コメント編集

拍手レス

>phalanxさん

いらっしゃいませー。拍手コメありがとうございます!
動画なら一目でわかるダンスシーンを文章に書き起こすのは、
一番難しくもあり一番楽しい作業でした。臨場感たっぷりとお褒めに
あずかって、正直わっほい!わっほい!な気分です。
今回は最初から最後まで千早のお話にしようと決めていたので、
ラストも千早落としと相成りました。双子にお姉ちゃんお姉ちゃんと
慕われる時の千早は、ソロで活動しているどの千早とも違う雰囲気
なのが個人的にとても気に入ってます。

またそちらのブログにもおじゃまさせていただきますねー。
寓話 | 2009年07月26日(日) 23:15 | URL | コメント編集

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