All archives    Admin

03月≪ 2017年04月 ≫05月

123456789101112131415161718192021222324252627282930

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2010'03.25 (Thu)

居なくなった君に

「一枚絵で書いてみm@ster」第三回 参加作品です

※70行

***

【More】

「ひさしぶり、律子。ここの桜が散る前に、再会できて嬉しいわ」
「待たせて悪かったわね。途中で、紙コップを忘れたって気づいたの」
「また、その水を買ってきたの?」
「なにしろ、千早の名前を日本中に知らしめてくれた、ロングヒット商品だもの。
 宣伝文句は、『ひとくち飲んだら、貴女にも歌姫のような美しい歌声が――』」
「ふふっ。なつかしいわね。デビュー半年で歌姫だなんて、持ち上げ過ぎのような気もしたけれど」
「それだけみんなが、成功する千早の姿を待ちわびていたのよね」
「律子にはいくら感謝しても、し足りないわ。海外に出たかった私の夢を、叶えてくれたのだもの。
 あれほどの手配がなければ、私も、私のプロデューサーも、日本に縛られ続けていたでしょうね」
「そうかもしれない。……でもね千早。いくら周到な私でも、自信満々だったわけじゃないのよ?
 ほら。二年前にも、大型旅客機が海上トラブルを起こして、墜落していたことがあったでしょう」
「そんなに大きな事故があったなんて……向こうに戻るときの飛行機が心配だわ」
「そうそう。前にも千早はそんなことを言って、なかなか別れたがらなかったのよね。
 今日は久しぶりの来日なんでしょ? 千早の近況を、私にたくさん聞かせてちょうだい」

***

「律子だけを勝手に呼び出しておいて、申し訳ないのだけれど。事務所のみんなは元気?」
「そうね。前々からの変化を述べるなら、美希が765プロから離れたくらい」
「……なんですって?」
「自分で決めたのって、美希は言ったわ。私も目を届かせているから、心配しないで」
「私、やっぱり日本を出ないほうが良かったのかしら」
「もう、千早ったら。あんなに海外に出たがっていたのに?」
「だって、一度海外で仕事をはじめたら、そうそう簡単に日本には戻ってこれないのよ。
 事務所からも離れてしまっていたら、近況だって不鮮明なものになってしまうわ」
「まさに今の千早みたいな感じね」
「……ごめんなさい。……でも、律子。美希は本当に大丈夫なのね?」
「私が大丈夫だって思えたことだから、千早にも打ち明けることにしたのよ。
 逆に、私が一番不安なことを打ち明けたら、千早は日本に残ることも考えるでしょう?」
「律子には大きな借りがあるから……。いつか、律子の力になりたいとは考えているのよ」
「また私が遅刻してきても、笑って許してくれればそれで構わないわ」
「それならお安い御用ね。どれほど律子が遅刻してきても、私はこの場所で桜を眺めているから」

***

「千早。携帯が鳴ってるみたいよ」
「……きっとプロデューサーだわ。まだ、律子と話したいことは沢山あるのに……」
「あまり待たせても悪いから。今日は、もうお開きにしましょう」
「またこの場所で、桜の季節に会ってもらえる?」
「千早が極秘で来日してくれるのなら、喜んで」
「良かった」
「さてと、私も事務所に戻らなくちゃ。机の上には仕事が山積みなのよ」
「私は、もう夢を叶えてしまったけれど。いつか律子が夢を叶えるときが楽しみね」
「そう?」
「自分の事務所を構えて、プロデューサーになった律子と一緒に、ここで桜を眺めてみたいわ」
「――ああ。そうだった、そうだった。次回は、紙コップを忘れないようにしなくちゃ」
「自分が先に20才を迎えても、律子はお酒を持参したりはしないのでしょうね」
「アイドルに泥酔でもさせたら大失態だもの。相手が若い千早なら、いつでもお水で充分よ」
「わかったわ。それじゃあ、また今度。――さようなら、律子」

***

「プロデューサーさん、プロデューサーさんってば」
「美希? どうしたの、こんな夜遅くに」
「事務所を出たきり戻ってこないから、ミキと社長、すっごく心配しちゃったんだよ。
 ひとりで桜なんか眺めて、どうしたの? 公園にはもう誰もいないよ?」
「心配させてごめんなさい。ふと思い立って、ここの桜を眺めたくなったものだから」
「あれ、プロデューサーさん。どうして今日は眼鏡なの? みつあみも久しぶりだよね?」
「それは、秘密」
「えー。どうして?」
「未だに打ち明けられていないのよ。もう二年も経つのに、私の不安はずっと変わらないから」

自分の事務所を構えて、プロデューサーになっていた律子は言いました。

「本当のことを打ち明けたら、千早をずっと日本に縛り付けてしまいそうな気がして」

風が吹いて、桜がこぼれて、律子の独白はその中に消えました。
桜の木の下には、水の入った紙コップがひとつ残されました。

                                    (おわり)
00:00  |  律子  |  TB(0)  |  CM(10)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

最近いろんな方々のSSを読む機会が増え、そのたびに
「あれ……いや、こういうことだよな……いや待て、えーと……」
などと呟きながら何度も読む、と言うパターンが増えました。
普通はそこで「あー! こう言うことだ!」と膝を打ってから、
感想なりなんなりを付けるのですが、すみません。
未だに解釈に迷っております(苦笑

なんかこう、読むたびに違う解釈が生まれてくると言うのが、
なんともずるいですね。物語に幅があると言うか。
ああ、多分こうなんだよなぁ、と言う解釈が正しいと確信できない
自分がもどかしいw また読みます。
微熱体温 | 2010年03月28日(日) 16:04 | URL | コメント編集

誰に対しての

嘘を律子はついてるのでしょうね

千早のために嘘……いや実際律子は千早に対して
嘘は一言もついていないですね 実は
嘘はついてないけど 真実をすべてを告げていない
それは千早のためを考えているのか
ただ打ち明けることが怖いからなのか……

律子自信わかってないのかもですね
トリスケリオン | 2010年03月28日(日) 16:42 | URL | コメント編集

>微熱体温さん

御来訪ありがとうございます。お題イラストが非常に幻想的でしたので、
エッシャーの「だまし絵」のような空気を入れたいなあと考えていました。
(※以下、ひとつの解釈案になります)

・作中の律子は20才ですが、千早は「15才」です。

律子はまだ「美希が自分の元に来てくれたこと」しか打ち明けることができず、
千早はまだ「自分が事故に遭って亡くなっていること」を認識できていません。

『夢を叶えた直後の機内で、夢を見たままPと共に事故に遭った千早と、
 手配の責任と千早の思い出に悩んで事務所を離れた律子と、
 そんな不安定な律子が心配になって、後を追ってきた美希』……という話でした。
(ループの出口を作れるのは美希かな、と思います。律子ではほぼ不可能ですね)

読み手さんにどう解釈されるかなー、という部分も含めて、
書きながら始終ドキドキしていました。
コメントどうもありがとうございました!
寓話 | 2010年03月28日(日) 19:19 | URL | コメント編集

>トリスケリオンさん

律子がいちばん嘘をついている相手は、やはり律子自身かもしれません。
アイドルの中では目立たないのですが、なまじ脆い部分のある律子なので、
自分が生みだした非日常的な現実を前にして、自分を守るための嘘をつき
続けるしか律子には手段がないように思います。

事故に遭ったんじゃなかったの?と尋ねても、千早には事故の記憶がなく、
感謝すらしてくる状態なので、罪悪感から律子は全ての事実を告げられ
ないでいます。トリスケリオンさんが仰られているとおり、夢の記憶で
幸せそうな千早を考えると真実を告げられず、打ち明けることに律子は
恐怖を覚えています。
世界の違和感に千早が気づくのが先か、律子が誰かに打ち明けるのが先か、
……という感じになるんじゃないかな、と思います。


重ね重ね企画主催おつかれさまでした。そしてコメントありがとうございました!
(余談になってしまいますが、第三回は「粗筋」が一番むずかしかったです…w)
寓話 | 2010年03月28日(日) 19:29 | URL | コメント編集

拝読致しました

読み終わった瞬間、思わず「うめえ!!」と膝を叩いてしまいました。
諸所に張り巡らされた伏線を会話の中に自然に溶け込ませる技術、そしてその伏線を通じて想像できる律子さんと千早さんの気持ちを推し量ると、心がじーんとして、わくわくして、あぁストーリーテラーとはこうあるべきだと感嘆しました。
比較的短い文章の中にここまで世界観を重ねられるのかと、その技術力の高さに脱帽です。
素晴らしいSSをありがとうございました!
小六 | 2010年03月29日(月) 03:30 | URL | コメント編集

>小六さん

小六さんの膝叩き! ヒャー!(((( ;゚Д゚))))メッソウモナイ!!

会話主体の文章から、書き手以上の高揚感を汲み取って頂けたことに
頭を膝にぶつける勢いで感謝いたします。ありがたやありがたや。

「死」は自分の中で最も表現が苦手なテーマです。なかなか真っ向から
描くような機会も勇気もなかったので、提出後に小六さんの作品を拝見し、
「うわあー!」とひっくり返ってしまいました。
提出した作品をちょっと引っ込めたくなったことは脇に置いておいて、それでも
普段使わないモチーフとかテーマとか、別の書き手さんによるそれらの扱いを
拝見できるのはとても参考になります。小六さんの書かれる素晴らしいSSから、
自分がわくわく感を頂くこともしばしばです。普段たくさん頂いているものなので、
そういった気分が、少しでも小六さんにお返しできていたらいいなあと思います。
コメントどうもありがとうございました!
寓話 | 2010年03月29日(月) 19:27 | URL | コメント編集

うわぁ。

読む。面白い。ストーリーの欠けてる所を補完する。
律子さん、マジ敏腕! 美希の事、トップアイドルにしてやってくれ!

コメント読む。えーっ!?

読む。考える。ストーリーの裏側を作者コメントで繋ぐ。
うわああぁぁぁぁぁっ!

そんなこんなでした。
2度楽しめました。でも、2度目は悲しくなりました。
なんと切ないストーリーでしょう。
ガルシアP | 2010年03月30日(火) 01:36 | URL | コメント編集

よかった……

俺の解釈有ってた……w

それと同時に、ああ、やっぱりそうなんだ……と言う、
今まで解釈を曖昧にして、自分の中に作りこんだ
思考の牢獄から解かれた後に、何とも言えない気持ちが
残る余韻がまた切ない……この行数でこれだけの物語を
しっかりまとめて来られる寓話さんの筆力は素晴らしい。
勉強になります! ありがとうございました!
微熱体温 | 2010年03月31日(水) 01:03 | URL | コメント編集

>ガルシアPさん

「しっかり者で敏腕そうな律子」が映ったら、それは多分、千早の目に映る世界です。
「どこか自信のない律子」が映ったら、それは多分、世界に千早が居ないせいです。
律子の姿は、千早の存在を、どちら側で認識するかによって、変わるように思います。

>律子さん、マジ敏腕! 美希の事、トップアイドルにしてやってくれ!

このコメントは貴重でした。重いテーマを書いた上で非常に救われた気がしました。
(実際の所、マジで敏腕だったのは美希と律子Pであり、律子はやがて「世界」にも
 通用するPだと言われる、いわゆる「美希P」のポジションに就いています。
 「世界」を射程に捉えた美希が、桜の下にいる千早の姿をその目で認識できたとき、
 過去の律子が生じさせたループの終わりがくるのではないかな、と考えています)
二人の会話から、楽しそうなやりとりと、ほんの少し含まれた切ない雰囲気を感じて
頂けましたら幸いです。コメントどうもありがとうございました!
寓話 | 2010年04月01日(木) 19:32 | URL | コメント編集

>微熱体温さん

「もしかしたらこの話は…」の解釈の一つに、千早の生存の有無を浮かべて頂けたら、
自分はとても満足です。ありがとうございます。少なくとも作中内の二人は幸福であり、
そこに重い過去をあれこれと含ませることは出来ませんでした。千早と律子の二人は
下を見ない限り落下しない、崖の先の空中を歩いているグーフィーのようなものです。
(律子はその危険に薄々気づいていますが、まだ足元を直視することが出来ません)

ループ展開をとり挙げる上で、微熱さんの一枚絵作品(「自爆装置」と「無期懲役」)を
意識せずにはいられませんでした。毅然とした論理回路の中で、ループ発生の経路と
出口の発生条件が非常に納得できるものであり、自分もどこかで何かをループさせて
みたいな、と思ったのがきっかけです。「桜が咲くたび、千早に会いに行く律子」という
短い話になりましたが、どこかちょっと切ない空気が感じられたら嬉しく思います。
自分の方こそいつも創作熱をくすぐられてばかりです。コメントありがとうございます!
寓話 | 2010年04月01日(木) 19:34 | URL | コメント編集

コメントを投稿する


 管理者だけに表示  (非公開コメント投稿可能)

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://allegoryfactory.blog34.fc2.com/tb.php/80-60798ff5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。